真・MFC千夜一夜物語 第349話 圧力式フローコントローラーの現状 その3
半導体製造装置市場向けで注目を集めている圧力式フローコントローラーに関する解説です。
ここで各メーカーの圧力式フローコントローラーを俯瞰してみましょう。
解説にはDecoの主観が入っていますので、鵜吞みにせずに詳細は各メーカーさんに確認してくださいね!
①フジキン FCS-P シリーズ
MFC業界での圧力式フローコントローラーの始まりは(株)フジキン(以下フジキン)の臨界ノズル方式のフローコントローラーFCS(FCS-P)シリーズです。 (臨界ノズル式は広義で差圧式流量計に分類できると考えています。)
開発当時は音速ノズル(ソニックノズル)方式と呼称されていました。
FCSはその原理上、一次側圧力変動影響を受けないという利点から、従来の熱式マスフローコントローラー(MFC)では必要とされたMFC一次側への圧力調整器(ラインレギュレーター)と圧力センサー設置を不要にすることができました。
これによるガスシステムの小型化、コストダウンに大きく貢献するという評価から、マルチチャンバー化で多系統のガスラインを必要とするドライエッチング装置で採用されて有名になりました。
圧力式フローコントローラーであるFCS第1世代(この世代名称は分類上、Decoが名付けたもので、フジキンさんの公式な名称ではありません。)の構成を下図で見てみましょう。
オリフィス上流側の絶対圧が下流側絶対圧の2倍以上になると、そのオリフィスを通過するガスの流速は音速に達し、以降はガスの流量はオリフィス上流側圧力にのみ比例します。
この臨界膨張条件と呼ばれる原理を応用したのがFCSの特長です。
FCSの流量制御原理を、音速ノズルの効果で流速が固定されることを、流量も固定されると誤解している人がおられますが、それは間違いです。
流量は上流圧に比例して増加します。
例えば400Pa(A)である流量が得られるオリフィスに対して、オリフィス上流側圧力を10倍の4kPa(A) にすると、10倍の流量が得られるという考え方です。
MFCは上流側圧力変動の影響により制御流量が激しく揺らぎ、これをキャンセルする為には圧力センサーを搭載したPI-MFCを用いたりしますが、FCSはこの原理により、上流側圧力変動の影響を全く受けないメリットを受ける事ができのです。
この臨界ノズル式の肝は、オリフィスの上流圧をいかに精度よく制御できるかです。
これにはオートマチック・プレッシャー・コントローラー(APC)が用いられています。Decoは臨界ノズルを国家の流量標準移管器として使用されている産業技術総合研究所 計量標準総合センター(NMIJ)等で何度か見せ頂きましたが、Paレベルで調整が可能な高精度なAPCによる圧力制御を、非常に高価な絶対圧センサーと制御バルブとの組み合わせで実現しておられました。
FCSは現在までDecoの知る限りでは第3世代まで進化しているように思えます。
第1世代から第2世代への変更点は、臨界ノズルの下流に絶対圧センサーを追加した事です。臨界状態をノズルで維持できている限りは、この追加は不要だったと思うのですが、フィールドで直面する各種使用条件への対応に迫られて追加されたと考察しています。
それに対して第3世代は、ノズル上流に空圧弁を追加し、下流側圧力センサーを廃しています。
おそらくはALD/ALEといった高速応答、及び流量制御バルブ下流側デットボリューム削減を意図し、彼らの理想とする"水道方式"に近づけた姿と考察しています。
その意味では異なる派生バージョンと考えてよいかもしれませんね。
【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan