真・MFC千夜一夜物語 第382話 流量制御バルブとアクチュエーター  その2

2022年11月29日

マスフローコントローラー(以下MFC) の流量制御を司る流量制御バルブとそのアクチュエーターに関して再び解説していきましょう。
下図にMFCの流量制御の仕組みを示します。

これは前回紹介した自動制御の構成と同じです。
流量センサー+調整計+自動制御バルブ=MFCという関係ですね?
MFCでは熱式流量センサーが検出器としての役割を果たし、そこからの測定値(Process Variable 以下PV)と外部から与えられた目標値(Set Variable 以下SV)とを比較し、その偏差を無くす為に、流量制御バルブの操作量(Manipulative Variable 以下MV)を決定する自動制御を行っているのです。

調整計での制御にはPID制御が用いられている事が多いです。
PID制御とは、P(Proportional=比例)制御、I(Integral=積分)制御、D(Derivative=微分)制御の各出力を加算合成したものです。
PID制御はフィードバック制御の1つで、非常に汎用性のある制御技術です。

P制御とは、目標値と現在値との差に比例した操作量を調節する制御方式です。
ある範囲内のMVが、制御対象のPVの変化に応じて0~100%の間を連続的に変化させるように考えられた制御のことです。
通常、SVは帯の中心に置きます。
ON-OFF制御に比べて、ハンチングの小さい滑らかな制御が可能になります。
SVとPVの差が大きければ加速度を上げてSVに接近させるように制御し、PVに近くなると徐々に加速度を下げる制御を行います。
P制御の問題点は、PVがSVに近づくと、MVの伸びが鈍ってしまうことでした。
この為、SVに近い状態まで行ってPVが安定するのですが、永遠に「PV=SV値」にはならないのです。
このP制御における、PVとSVの差を偏差と表現します。
P制御ではSVに近づけることまでできるが、SVとの偏差を0にできません。
これではいつまでもSV=PVにはならないですね?
MFCでそれは困りものです。
100SCCM流量を設定したのに、ずーっと出力は98SCCMで安定してしまうMFCは使いにくいと思います。

この偏差をなくすために考えられたのが、積分動作(I動作)です。
I動作は偏差を時間的に蓄積し、蓄積量がある大きさになった所で、MVの操作量を増やして偏差を解消させるという動作をさせてくれます。
P動作にI動作を加えた制御をPI制御(比例・積分制御)と言い、一般的なMFCはこのPI動作で制御されいると言っていいです。

ただ、PI制御は偏差を蓄積する為にPVがSVに合致するのに時間が必要になります。
MFCのように周囲の配管機器とガス供給系を形成している場合は、それだと色々と難しい問題が起きてしまいます。
MFCの1次側で複数ラインを1つの調圧器(レギュレーター)で賄う場合、各ラインでのバルブ切り替えによる消費ライン数の増加に伴う一時的な払い出し量不足や、二次側の真空チャンバー排気量のゆらぎによる二次圧変動のような突発的に強い外乱が発生した場合、PI制御では偏差をある時間が経過した都度修正するので、元の値に戻るのに時間が掛かってしまうのが問題視されてしまいます。
それに対する改善策が外乱に対する微分動作(D動作)を加えたPID制御(比例・積分・微分制御)なのです。
でも、このPID制御ですら万全ではありません。
例えば図中にあるようにオーバーシュートを伴う急峻な波形を形成してしまうことで、二次側に容積の小さな真空チャンバーがあった場合に真空度を急激に悪化させたり、装置のインターロック(PVをモニターし、SVの一定許容範囲を超えた際にアラームを立てる機能)を作動させかねないのです。実はこれに対する局所的な解消方法が一次側圧力変動影響緩和機能であるPI(Pressure Insensitive)機能です。
PI制御と同じPIでも意味が異なるので注意してください。

このようにPは偏差の変化にただちに応じる為にMVを出す「即応追従」、Iは目標値と測定値の偏差を引き続き一致させるべくMVを出す「継続追従」、Dは偏差の変化率から将来の動きを予測してMVを出す「予見追従」を各々が担当しているので、その匙加減がPID制御の調整で一番重要な点なのです。
「過去(I)は余り振り返るな、未来(D)に期待し過ぎるな。」と、Decoはベテランの技術さんに教わった覚えがあります。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan