真・MFC千夜一夜物語 第386話 流量制御バルブとアクチュエーター その6
2023年始まって初めての真・MFC千夜一夜物語となります。
マスフローコントローラー(以下MFC) の流量制御を司る流量制御バルブとそのアクチュエーターに関して再び解説していきましょう。
ピエゾアクチュエーターの真に優れた特性は何でしょうか?
それはやはり力なのです。
ピエゾとソレノイドを比較すると、ピエゾは、ある電圧をかけることでで、結晶構造体が変位する(=逆圧電効果)性質を持ちます。
つまり「固体の変形」により「伸び縮み」するのです。
それに対してソレノイドは、電磁石の「磁界の強弱」でバルブプランジャー(可動鉄芯)を「動かす」のであり、しかもMFCの流量制御バルブの場合、開閉のどちらでもない中間点で「止め」なくてはなりません。
どこまで伸ばしても、あくまで固体であるピエゾと、磁界の中でプランジャーを浮かせて移動しているソレノイドでは、当然バルブに対して働く力には大きな差が出てしまいます。(もちろんソレノイドが浮いていると言っても、板バネで磁力の向きと反対方向へ固定はされています。)
そしてもう一つが分解能です。
ピエゾはそもそも微少な変位量しかないのが特徴であり短所でした。
逆に言えば、微少な変位をするのは得意なのです。
それ故、精密にバルブ開度を調整できる分解能の分野でも、ピエゾはソレノイドには勝ります。
力があって、なおかつ精密な動きが得意なアクチュエーターであるピエゾをMFCで使うことの真の意味は、MFCのバルブを構成する上で大きなメリットになるメタルダイヤフラムバルブを形成できることです。
このバルブ構造は、多種多様な腐食性、可燃性、毒性ガスを使用しなくてはいけない半導体プロセスガスには欠かせない構造です。
接ガス部を最小のボリュームにすることで、生成物による詰まり等の故障や外部リーク事故のリスクを減らすだけではなく、パージによるガス置換に要する時間もそれだけ早くなり、ターンアラウンドタイム(TAT)の短縮による、無駄の少ないプロセスを作り上げることができるのです。
MFCの流量制御バルブは流量センサーの出力と、設定流量信号入力が一致するように、バルブの開度制御を行うので、常にバルブは開度を細かく変化させています。
そういった流量調整機能には柔軟さが必要だが、対腐食性を考慮すると、樹脂製ダイヤフラムは使用できず、やはり金属製、それもSUS316L等の耐腐食性を持つ材料を使用したいのです。
しかし、そういったメタルダイヤフラムは、一様に堅いのです。
それを強い力で変位させ、維持し続け、更に常に外部条件(温度・圧力変動)や設定流量の変化に合わせ精密に開度を変える必要がありました。
ピエゾアクチュエーターは、こういったメタルダイヤフラムにうってつけのアクチュエーターだったのです。
SUS316Lより更によりしなやかさで、飛び移り座屈性能(スナップスルー)の良い材料として、日立金属(株)(現:(株)プロテリアル)が自社材料であるNi-Co合金ダイヤフラムYET101を使用した波形ダイヤフラム搭載MFCを開発したことで、ダイヤフラムに「分離目的とともに、可動しバネ役割をはたす」機能を実現しました。
ダイヤフラムがバネの機能を持つと言うことは、接ガス部にスプリングのような摺動部を置く必要が無くなり、パーティクル発生や、ガスの吸着が少ないシンプルバルブ構造を実現できたのです。
このことにより半導体プロセスガス用MFCのバルブは大きく進歩しました。
ピエゾアクチュエーター+メタルダイヤフラムバルブという組み合わせは、現在でもその地位が揺るがないほどエポックメイキングなものだったのです。
【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan