真・MFC千夜一夜物語 第413話 マスフローに関する誤解 その4

2023年10月10日

Decoが見聞してきた中で、マスフローメーター(MFM)マスフローコントローラー(MFC)の使用方法に関して、一般的に大きな誤解があるなぁと思ったものを取り上げてお話ししていきたいと思います。

MFCとランピングのお話の続きです。

流量制御でも、下流側のチャンバーの圧力を急変させずにガスを導入したい場合や、高圧容器へガスを充填するのに一定の傾きで流量を制御したいというアプリケーションは存在しています。
その解としてランプ制御を提案した制御屋さんが居られたのだと思うのですが、実はこういった流量設定信号(S.V.)を刻々と変化させる方法は、流量センサーが熱の伝導を原理に用いる熱式センサーを積んだMFCが最も苦手とするところなのです。

図のような波形でS.V.を刻々と可変させながら入力した場合、大概のMFCはオーバーシュートやアンダーシュートをくり返しながら流量制御をすることになります。
S.V.通りにMFCを動かしたいのに、制御はかけ離れたぐしゃぐしゃの波形になってしまうのです。そもそも現行世代のMFCはその熱式センサーの応答の遅さに対して、ピエゾやソレノイドのような高速アクチュエーターとの危ういバランスで成り立っています。
こういた制御でS.V.=P.V.となるように制御しようとしても、その前にS.V.はまた増加してしまい、結果として常にS.V.とP.V.が不一致の状態で流量制御を行うことになってしまいます。
また、配管全体のボリュームを考慮すれば、MFCで流量制御が上手くできたとしても、既に流れてしまったMFC下流のガスは制御されるわけではないので、より一層チャンバーに入る実ガス流量波形は乖離することになりかねません。
MFCのP.V.の波形が、綺麗なランプ制御の波形に合致したとしてもチャンバーにその通り流れ込むことにはならないのです。
これはMFCチャンバーや容器の距離が遠ければ遠いほど酷いことになります。

ランプ制御に近づける為のMFCに望ましいS.V.の入力パターンは図の破線のようなステップ入力での対応になります。
MFCの応答は原則ステップ入力でと憶えておいてください。
では、流量制御ではランプ制御は難しいのかと言えば、そうではありません。
あくまで流量センサーと流量制御バルブそしてPIDコントローラーが同居しているMFCというパッケージでは苦手だと言うだけの話です。
そもそもMFCの熱式流量センサーという応答の遅いセンサーで、S.V.=P.V.にさせる比較制御が邪魔をしているだけなので、一つには応答の遅い巻線型から、応答の比較的早いMEMS型にするだけでもかなりの改善はみられます。

しかし、MEMS型流量センサーが対応できない腐食性のガス等も存在しますね?
そういった場合は、よく考えてみて下さい。
既に装置側はランプ制御である時間でこの設定値迄可変するという制御を行うと決めているのだから、本来ならMFCの中でS.V.=P.V.となるよう比較制御を行わせる必要はないのです。
これは流量制御バルブをダイレクトに装置側のPLC等で制御するモードをMFCに追加すれば対応が可能になる筈です。
つまり内蔵した流量センサーに基づいて流量制御させるモードと、外部からバルブ制御信号(M.V.)を入力してダイレクト制御するモードを、ネットワークを介して切り替えてやればいいのです。

DecoがこのモードをMFCに持たせることを推進している事を記憶しておられる読者さんもおいででしょう。
そう半導体製造装置向け一次圧変動影響抑制機能(PI=Pressure Insensitive)に関する考え方と同じなのです。PIでも装置側ではガス供給ラインの切り替えによる供給圧力の変動を事前に把握できる立場にあるのだから、そのタイミングでMFCの流量制御に割り込みをかけて、バルブ開度を現状維持、もしくはセーフポジションへ制御してしまえばいいという考えを披露しましたね?
要は便利なMFCですが、何でもできるわけではないのですよ、というお話なのです。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan