真・MFC千夜一夜物語 第438話 MFCの歴史を振り返ろう その14

2024年07月02日

マスフローコントローラ(以下MFC)の歴史に関して振り返っています。
DecoがMFCメーカーから離れ、一介のコンサルタント、エヴァンジェリストとして過ごして10年になります。
これを期にMFCという不思議な工業製品の技術動向をその歴史を俯瞰しながらまとめて行きたいと思います。

MFCメーカーの変遷は激しいものがありました。
その背景を技術の流れを読むことで、解き明かしていきたいと思います。
まずはMFCの誕生まで遡ります。
熱式流量計が産まれ、それが流量制御バルブ、調整計と一体となったMFCの起源に関しては諸説があります。
Decoが業界に入った頃に、教えられたのは「MFCはNASAで産まれた。」というものでした。
当時のアポロ計画で使用する為に、熱式流量計が開発され、そこからMFCという姿になったという説です。
米国MFCメーカーの元祖的な存在のユニットインスツルメンツ(Unit)、タイラン(Tylan)、そしてブルックス(Brooks)の創業者がそれに参加していたというまことしやかな話まで聞かされたことがあります。

ただ、今から考えるとそれにはかなり矛盾点もあり、いずれかの形でこれらのメーカーに関係した人間がNASAやアポロ計画には関与したのだろうが、いささか虚飾誇張が入っているように思えるのです。
この3社の中で唯一現在も残っているブルックスのHPには「1970年代にアポロ宇宙船の酸素量の精密測定に初めて使用されたMFCは、タイランRC-260という呼名で市販されるようになりました。これによって半導体メーカーは、プロセスガスの自動制御を初めて手中にし、処理量と歩留まりを産業レベルに引き上げることができました。」との記述があります。
宇宙飛行士向けの酸素量測定がNASAで用いられたMFCというか熱式流量計のオリジンとしてDecoも教えられましたが、これはあくまでMFC(上図)としてではなく流量測定用のマスフローメーター(以下MFM:下図)としてのアプリケーションではなかったのかと・・・

なぜなら呼吸用の空気(ある定量の酸素を含む気体)の流量制御をMFCで行うというのは、現在の医療用酸素濃縮装置でも主流ではないからです。
理由はこの連載の愛読者には思い当たるところがあるかと思いますが、人の命がかかる呼吸という行為で送り込まれる流量がオーバーシュートやアンダーシュートなどの制御不良を起こしたとしたらどうなるでしょう?二十年以上前に「酸素濃縮器にMFCを使ってみたい」という顧客要望にDecoは首を横に振った記憶があります。
その理由は「直接生命を左右する用途にはMFCを使わない」というのがDecoの長いMFC営業生活での信条だったからなのです。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan