真・MFC千夜一夜物語 第442話 MFCの歴史を振り返ろう その18

2024年08月06日

マスフローコントローラー(以下MFC)の歴史に関して振り返っています。
DecoがMFCメーカーから離れ、一介のコンサルタント、エヴァンジェリストとして過ごして10年になります。
これを期にMFCという不思議な工業製品の技術動向をその歴史を俯瞰しながらまとめて行きたいと思います。

振り返ってみると日本でMFCメーカーが次々と開業し、ピエゾ、ウルトラクリーン、デジタル、液体気化と言った新しい技術が百花繚乱的に産まれたのは、やはり当時の日本の半導体産業のお陰であったという感が深いのです。
半導体製造装置産業は、流体制御分野の非常に狭い範囲をフォーカスしています。
流体種こそ多彩で不活性ガスから腐食性ガス、毒ガスから最新の液体材料まで幅広いのですが、流量制御範囲は数SCCM~100SLM程度、圧力条件も低圧から真空です。

そんな半導体製造装置でこれほどMFCが重用されるのには理由があります。
MFCという流量センサーと流量制御バルブ、そしてPIDコントローラー等の調整計までを一体化したフォーマットを採用しているシステムは一般的な計装業界から見ると特殊な存在です。
本来MFCは装置のガス・液体供給システムを構成する一つのコンポーネントに過ぎず、決してスタンドアローンで機能するシステムではありません。
しかし、流量を測定し、その結果と装置側からの流量設定信号と比較し、自動制御するという性質はサブシステムに近い存在であるという見方もできます。
MFCは装置からの設定流量信号を得た後の制御に関しては、装置側からの一切の制御を受けずに独自で流量制御を行います。
こういった一体化した自動制御デバイスは、流量制御の世界では少数派なのです。
計装業界では流量計と流量制御バルブは別個に存在し、その制御は装置側のPLCのPIDコントローラーが行うスタイルが圧倒的に多いのです。
MFCのような存在は熱式流量計の分野にほぼ限定されるといってよいでしょう。
それこそがMFCのヘビーユーザーが半導体製造装置向けである事と密接なかかわりがあるのです。

半導体製造装置といっても複数の種類が存在しています。
プロセスによりガス供給ラインが10系統以上になる装置もあります。
それだけで10台のMFCが使用されることになりますが、流量レンジにより複数のMFC、例えばフルスケール10SLMのMFCと10SCCMのものを使う場合もあり、更に半導体製造装置でも枚葉式と言われる半導体ウエハーを処理するチャンバーを複数持つ装置では、そのチャンバーの数量倍MFCが必要となります。
こうなるとガスシステムでガス制御系の占めるフットプリントはかなりのものとなってしまいます。
流量計と流量制御バルブを別々に配置するより、一体化したMFCを使用した方が、フットプリントを制約できるのです。

この流れをさらに進化させたのがIGSによるガス系の小型軽量化の流れです。
1チャンバー当たりでMFCの使用数が多いエッチャーやCVDでは、MFCの小型軽量化に対する要求が大きくなります。
MFCと閉止弁や圧力センサーを搭載したガスボックスのフットプリントはそのライン数=MFCの台数が多いほど大きくなるのです。
10~20ラインのガスパネルをチャンバーの数量分設置すると、そのフットプリントは装置内のスペースを圧迫してしまいます。
その打開策としてIGSを採用しているのですが、ステンレスの塊であるIGSブロックは重いので軽量化にはなかなか繋がりません。
故に以前紹介した10mmMFCのような画期的な薄型MFCによるIGSそのものの小型軽量化が求められているのでした。

10mmMFC搭載IGS予想図 出典:(株)フジキン

このように日本市場は半導体製造装置にフォーカスし、その需要の変化に合わせて新しい技術を提供するプレイヤー達が鎬を削る世界になっていったのです。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan