真・MFC千夜一夜物語 第443話 MFCの歴史を振り返ろう その19

2024年08月20日

マスフローコントローラー(以下MFC)の歴史に関して振り返っています。
DecoがMFCメーカーから離れ、一介のコンサルタント、エヴァンジェリストとして過ごして10年になります。
これを期にMFCという不思議な工業製品の技術動向をその歴史を俯瞰しながらまとめて行きたいと思います。

今回はEUのMFCメーカーに関してです。
米国、日本の激しいMFCメーカーの栄枯衰勢とは無縁な地がEUです。
EUではオランダを本拠としたブロンコスト(Bronkhorst High-Tech.B.V.)が意欲的な製品開発でEU圏の工業炉や化合物半導体製造装置で認められて成長していました。
EUには半導体工場が少ないこともあり、半導体に依存しない分析、化学、製薬といった一般工業向けの大流量、高圧対応等のユニークな製品を送り出しています。
前回までで解説した日本のMFCメーカーとは対極の存在として、半導体、一般工業を合わせた世界のMFCシェアでは堀場エステックに次いでシェア2位の位置にあります。

特にユニークなのがコリオリ式MFC&MFMです。
コリオリ式は熱式流量計と比較して流体の物性に左右されない点を高く評価されており、流体の物性が温度、圧力影響で変動しても質量流量で測定できる唯一の完全無欠な質量流量計です、というお話は本ブログでくどいほどやってきましたね?

熱式流量センサーが様々なコンディション変化により流体の定圧比熱が揺らぐことで制御流量に影響が出る問題からコリオリ式は解放されているので、高精度で高い繰り返し性を実現できます。
コリオリ式は製薬分野では希少な原料を正確にブレンドしなくてはならない付加価値の高いラインで特に評価が高く、このコロナ禍ではワクチン製造用で一気に需要が拡大しました。
また、従来のMFCのように流量制御バルブの開度を制御するのではなく、ポンプの回転数をダイレクトに制御するような試みも評価され、微小流量域でのコリオリ式はブロンコストの独壇場となっているのです。

コリオリ式MFMとギアポンプの組み合わせ  出典:ブロンコスト・ジャパン(株)

さて、19回に渡りMFCメーカーの変遷を解説してきました。
半導体向けMFCメーカーの栄枯衰勢は激しいものがあり、ユーザーが故障したMFCを修理しようとしても、もうそのメーカーは存在していないということがざらにあります。
EZ-JapanのHPにもそういった迷子の問い合わせが頻繁に来るので、「消えたマスフローメーカー お探しします!」というコンテンツをわざわざ作ったくらいなのです。
一般工業向けMFCメーカーでは左程ではないところを見ると、製造ラインをスクラップ&ビルドで進化させていく半導体産業についていくというのは、なかなかハイリスクな事業なのかもしれませんね?
Decoはリーマンショック後に起きたセレリティ崩壊からブルッククスへの米国MFCメーカーの収斂を間近で見てそう思いました。
世界シェア第一位の工業機器メーカーが崩壊するというのは、考えにくいことでありショッキングでした。
今や気楽なコンサルタントの身分のDecoなのですが、今後の業界の舵取りを担う方々には、このMFCという奇妙な機器の存続の為にも頑張っていただきたいと思っています。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan