真・MFC千夜一夜物語 第452話 コンバージョンファクターという曲者 その2

2024年10月29日

マスフローコントローラー(以下MFC)やマスフローメーター(以下MFM)でよく使われる言葉に、コンバージョンファクター(以下CF)という言葉がありますね。

よくマスフローの講習会で解説する際には、流体の物性を「流体が熱を運ぶ能力」と置き換えて簡単な例え話にしています。
流体を人間に喩えるなら、筋肉隆々の力持ちL、小柄で痩せたS、そして中肉中背平均的な体格のMと3人で荷運びの仕事をしているとします。(それぞれの運ぶのに必要な力の強さは見掛け通りとします。)
軽々と箱を3つ抱えて運んでいけるLに対し、Sは同じ大きさ、重さの箱を1個抱えるのがやっと。そして、Mは2個なら運べる・・・この3人が同じ回数運べば、当然たくさん運べるのはLになります。
SがLと同じ量を運ぶためには、Lの3倍行き来しなくてはいけませんね?

熱式流量計のセンサーでも同じ光景が起きています。
熱=同じ重さの箱、流体=運び手と考えて下さい。
流体にも熱をたくさん運べるガスと、そうでないガスがいます。
その能力を表すのが比熱です。
流体のSもまた力持ちのLと同じ熱量を運ぶためには、Lの3倍流さないといけない=3倍の流量が必要になるのです。

このように熱式流量センサーは、流体固有の物性に応じて熱を運ぶ能力に差が生じる事に着目しながら「移動した熱量から、流体がどれだけ流れたか?」を導き出すのがポイントなのです。
熱式流量計の測定対象流体は気体の場合が多いです。
気体では圧力条件のよるエンタルピーの変化量が大きい為に定圧比熱を用います。
熱式流量計を質量流量計として機能させるためには、流体種を固定する=定圧比熱を正確に求めないといけません。
窒素の定圧比熱は1気圧=1013hPa(A)条件の場合、0℃で1043J/kg℃であり、50℃でも同値です。
それに対して水素(0℃:14193J/kg℃→50℃:14403 J/kg℃)、二酸化炭素(0℃:829J/kg℃→50℃:875 J/kg℃)、アンモニア(0℃:2144J/kg℃→50℃:2181 J/kg℃)、メタン(0℃:2181J/kg℃→50℃:2303 J/kg℃)等、大きなもので5%を超えるガスもあります。

ブロンコスト(Bronkhorst High-Tech B.V.)が公開しているCFのデータベースとして"FLUIDAT on the Net"というツールを良くこのブログではご紹介しています。
ブロンコストは自社のMFC向けに測定した実ガスデータに基づいたデータベースを使って、デジタルMFCの特長を活かしたマルチCFで実ガスとの流量差を少なくする試みを早い時期から取り組んでいて、その貴重なデータをネット上で会員に公開しているのです。
この取り組みの先進性と公共性は素晴らしいとDecoは考えています。

このツールで試しにメタンガスの0℃と50℃条件でのCF計算を行い、結果を比較してみましょう。FLUIDATの操作は簡単であり、実ガス"Fluid from"にメタン=CH4("Methane")を、校正基準とする流体として"Fluid to"で窒素=N2を選択し、各々の条件を入れます。
メタンの流体温度を0℃と50℃、窒素の流体温度は20℃固定として、その流量を100SCCM=mln/min(Normal:ノルマル)、すなわち 0℃ 1013hPa(A)の体積流量に換算して出力させたところ、その結果CFは0℃で 0.8071@100%FSに対して、50℃では0.7504@100%FSまで変化しました。

FS100SCCMに対して約5%の差は、マスフローのカタログ仕様上で、繰り返し性や精度を議論している場合ではないと思えるくらいの大きな差ですね?
このようなガスは温度差ΔT/定圧比熱Cpという流量式に対し、更に流体温度による補正が必要ということがわかります。

*もちろんFLUIDATの結果はブロンコスト製MFC/MFMでの値ですから、お手持ちの他メーカー品ではそのままズバリは当てはまりませんので、ご注意ください。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan