真・MFC千夜一夜物語 第464話 MGMRを正しく理解する その1

2025年02月11日

本ブログでは質量流量計(熱式流量計、コリオリ式流量計)であり流量をアナログ信号やデジタル信号で出力するマスフローメーター(以下MFM)や、流量信号を基に流量制御を行うマスフローコントローラー(以下MFC)及びその応用技術での流体制御を紹介しています。
今回から"マルチガス・マルチレンジ(以下MGMR)MFC"を再び取り上げます。

最近、半導体製造装置向けMFCではこういった1台で複数のガス種に対応できるコンバージョンファクター(以下CF)データを持つMFCが主力となってきているのですが、これに対してユーザーの間で思わぬ誤解が生じている事例を先日体験しました。
「窒素(N2)でフルスケール1SLMのMFCは、メタン(CH4)や六フッ化硫黄(SF6)にMGMR変更しても1SLMのMFCになりますよね?」という問い合わせだを受けたからなのです。
この話は以前からMFCを扱う代理店の営業担当を悩ませていたある面倒な説明とリンクしてきます。

出典:ブロンコスト・ジャパン(株)

図にブロンコスト(Bronkhorst High-Tech .B.V.)のEL-FLOWシリーズのカタログ表記から流量レンジを抜粋したものを示します。
この様な表記は多くのMFCメーカーが採用しています。
MFCの事をよくご存じではないユーザーはこの表記を見て、上記の事例と同じような解釈をしてしまうのです。
例えば最大流量25ln/minのモデルは窒素でもメタンでも六フッ化硫黄でも最大流量は25ln/minであるべきだろう、という考えです。
これが営業担当を悩ませることになります。
「流体により必ずしもそうではない。」が回答だからです。
そこにはMFCが搭載している熱式流量センサーの特性が関わっているのでした・・・
では、既に何度も解説している内容ですが、熱式流量センサー=熱式流量計の特性に関して説明しましょう。

流量式はお馴染みのものを図に示しています。
熱式流量計の主流である巻線型の仕組みは「抵抗発熱体をセンサー管外周に2つ(ないし3つ)設置し加温する。管内に流体が流れた際、上流下流各々の抵抗発熱体から流体が奪った熱量を捉えられれば流量を導き出せる。」というものでしたね?
この熱の移動にはある特性があることがわかっています。
流量式を見ればわかるように、ここで重要な役割を果たすのが、流体の固有の係数である定圧比熱です。
流量式に流体固有の値である比熱を持つ熱式流量計の示す流量は、当然流体種に左右されてしまいます。
つまり熱式流量計の流量検出原理の肝である「流体が奪う熱量」は対象となる流体により差があると言うことを、この式は語っているのです。

そしてこの特性こそが、今回の窒素(N2)でフルスケール1SLMのMFCは、メタン(CH4)や六フッ化硫黄(SF6)にMGMR変更しても1SLMのMFCにならない理由なのです。
次回から詳しくお話していきましょう。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan