真・MFC千夜一夜物語 第465話 MGMRを正しく理解する その2
本ブログでは質量流量計(熱式流量計、コリオリ式流量計)であり流量をアナログ信号やデジタル信号で出力するマスフローメーター(以下MFM)や、流量信号を基に流量制御を行うマスフローコントローラー(以下MFC)及びその応用技術での流体制御を紹介しています。
この章では、熱式流量センサーを搭載している"マルチガス・マルチレンジ(以下MGMR)MFC"の解説を再び行っています。
よくMFCや流量計の講習会で、熱式流量計の原理の説明をするのですが、流体に依存するファクター"比熱"の説明で、「流体が熱を運ぶ能力」を、こんなたとえ話で解説しています。
筋肉隆々の力持ちLさん、小柄で痩せたSさん、そして中肉中背平均的な体格のMさんと3人で荷運びの仕事をしているとします。
それぞれの運ぶのに必要な力の強さは見掛け上の体格通りとしましょう。
軽々と箱を3つ抱えて運んでいけるLさんに対し、Sさんは同じ大きさで重さの箱を1個抱えるのがやっとです。
そして、Mさんは2個なら運べる・・・この3人が同じ回数運べば、当然たくさん運べるのはLさんになりますね。
SさんがLさんと同じ量を運ぶためには、Lさんの3倍行き来しなくてはいけません。
熱式流量計の中でも同じ光景が起きているのです。
熱=同じ重さの箱、流体=運び手と考えましょう。
流体にも熱をたくさん運べるガスと、そうでないガスがいるのです。
その能力を表すのが比熱ということになります。
流体のSさんもまた力持ちのLさんと同じ熱量を運ぶためには、Lさんの3倍流さないといけない=3倍の流量が必要になるのです。
このように熱式流量センサーは、流体固有の物性に応じて熱を運ぶ能力に差が生じる事に着目しながら「移動した熱量から、流体がどれだけ流れたか?」を導き出すのがポイントです。
熱式流量計の測定対象流体は気体の場合が多いのです。
気体は圧力条件のよるエンタルピーの変化量が大きい為に流量式では定圧比熱を用いています。
熱式流量計を質量流量計として機能させるためには、流体種を固定する=定圧比熱を正確に求めないといけません。
窒素の定圧比熱は1気圧=1013hPa(A)条件の場合、0℃で1043J/kg℃であり、50℃でも同値でです。
それに対してメタンは0℃:2181J/kg℃→50℃:2303 J/kg℃と窒素より値が大きく、更に0→50℃の温度変化で5%以上変動してしまいます。
これを流量に置き換えてみましょう。
ブロンコスト(Bronkhorst High-Tech B.V.)が公開しているCFのデータベースとして"FLUIDAT on the Net"というツールで計算してみましょう。

出典:ブロンコスト・ジャパン(株)
圧力0.1MPa(G)、0℃条件で計算した場合、窒素との流量差は窒素が1.238SLMの時にメタンが1SLMということになります。
CFは0.808です。
試しに定圧比熱の温度変化の影響を確認してみると、以下の図になります。

出典:ブロンコスト・ジャパン(株)
50℃での窒素との流量差は窒素が1.332SLMの時にメタンが1SLMということになり、CFは0.7506です。
これで定圧比熱の流量に対する影響がよくわかりますね?
このようにメタンのフルスケール1SLMを作ろうと思うと、実際は窒素でもっと大きな流量のものを作らないといけないのです。
それ故に冒頭で出た、「最大流量25ln/minのモデルは窒素でもメタンでも六フッ化硫黄でも最大流量は25ln/minであるべきではないのか?」というユーザーからの質問は、熱式流量計の場合は必ずしも成り立たないという事を理解してもらえるのではないでしょうか?
製品仕様の上限を窒素はギリギリでクリアしているのに、メタンではオーバーしてしまうという条件の場合に発生するし、例えば常温ではぎりぎり大丈夫でも温度条件が高温になった場合にアウトとなると言ったことはあり得るのす。
*本記事中のブロンコストのモデルはあくまで計算の都合上あてはめただけで、実際のモデル選定とは関係がありません。
【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan