真・MFC千夜一夜物語 第466話 MGMRを正しく理解する その3

2025年02月25日

本ブログでは質量流量計(熱式流量計、コリオリ式流量計)であり流量をアナログ信号やデジタル信号で出力するマスフローメーター(以下MFM)や、流量信号を基に流量制御を行うマスフローコントローラー(以下MFC)及びその応用技術での流体制御を紹介しています。
"マルチガス・マルチレンジ(以下MGMR)MFC"の解説を再び行っています。

MGMRというMFCにとって革命的な発明のお話をしましょう。
MGMRタイプのMFCは、パソコンと通信してソフトアプリケーション上の操作、もしくはMFC本体での操作で、ガス種・フルスケール流量レンジをある程度の範囲で書き換えることができます。MGMR以前のMFCは基本的にガス種・F.S.流量・継手等の仕様が決定してから、メーカーが生産する、所謂受注生産品でした。
Decoが現役のMFC営業時代、お客さんから「MFCの在庫ありますか?」という問い合わせをよく頂いたのですが、一つの型式のMFCでも「ガス種」窒素、アルゴン、酸素、アンモニア・・・・「F.S.流量」1SCCM~100SLMの組み合わせだけでも、すごい数の組み合わせになるのです。
これに更に継手種、電気信号のコネクター形状というファクターも入れると、比較的オーダーされる可能性が高い組み合わせがたまたま在庫されていたりする以外は、その全てを網羅した在庫がメーカーや販売店にあるわけではありませんでした。
そして、一度納入されたMFCの仕様を変更する・・・例えば窒素のMFCを六フッ化硫黄用にするには、メーカーへ送り返して、改造を依頼するしかなかったのです。

MGMRタイプが世の中に出現することで、ある程度の範囲でこの仕様変更がユーザーでも可能になったのです。
ものの数十秒でユーザーがガス種・流量変更ができるというのは、MFCの歴史上、異常に革新的な出来事でした。
でも、勘違いしてはいけないのは、F.S.1SCCMを100SCCMへの変更や、F.S.50SLMのMFCを100SCCMにするような事はできないのです。
なぜならMFCの基本構成となる流量を計る=センサー、バイパス、流量を制御するバルブのオリフィス径、アクチュエーターのリフト量といったハードウエアパッケージがカバーできる範囲には限界があり、一つの組み合わせで全てのガス種とF.S.流量レンジのマトリックスを網羅することは当然できないからでした。

ここで「ガス種とF.S.流量レンジのマトリックス」という言葉を使いましたが、元来マスフローではガス種という観念を個々に定義しているのではなく、CFで基準となるガス種と、対象となるガス種との流量の相対比を定義しています。
窒素(N2)100SCCM仕様のMFMに窒素を流すと当然100SCCMの流量を出力しますが、同じ仕様のMFMにアルゴン(Ar)を流すと表示は100SCCMでも、実際に流れる流量は140SCCM程度となります。
これを利用してガス種を単純に単一ガスとの流量比率だけで定義することで成り立っているのです。
もちろんガス同士の関係は、単純な一定比率ではなく流量レンジ、圧力、温度条件によって変化する傾向があり、窒素を基準とした場合、それよりも重いガスになればなるほど、その度合いが大きくなる傾向があります。

こういったガスの特性差による幅は今までMFCの実ガスでの流量誤差の要因とされ、メーカーは複数のCFを準備して対応してきました。
または基準にするガス種を窒素に固定せず実ガスと同じガス、もしくは六フッ化硫黄のような疑似ガスを用いたこともありました。
こういった経験から実ガスを実測しデータベース化して運用するという、MGMRの初期概念が生まれました。
ここでは一言で「実測」、「データベース化」と記しましたが、実はこの背景にはメーカーの長年の取り組み、投資があるのでした。

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan