真・MFC千夜一夜物語 第467話 MGMRを正しく理解する その4
本ブログでは質量流量計(熱式流量計、コリオリ式流量計)であり流量をアナログ信号やデジタル信号で出力するマスフローメーター(以下MFM)や、流量信号を基に流量制御を行うマスフローコントローラー(以下MFC)及びその応用技術での流体制御を紹介しています。
本章では"マルチガス・マルチレンジ(以下MGMR)MFC"の解説を再び行っています。
MFCの流量校正は窒素(大流量の場合空気の場合もある)をベースにしたコンバージョンファクター(CF)を使用して、実際に指定されたガス種を流さず、窒素を流した際の換算値で調整される事が多いのです。
なぜなら半導体製造用で使われるような腐食性、毒性のあるガス種の場合、それらを安全に流す設備を準備するだけでも大変ですし、そういったガスを一度流したMFCをそのまま梱包して、顧客へ出荷する等と言うことはナンセンスですよね?
こういったMFC生産の仕組みを知った顧客サイドで「じゃあ、全部窒素ガス仕様のMFCを使おう!MFCを制御する装置側の信号をCFに基づいて補正して使えば、色んなガス種に対応できるし、いいじゃないか?」というアイデアが産まれたことがありました。
その後に到来するデジタルMFCの黎明期では、CFやその他の設定を従来のアナログトリマを回して調整する方式から、EEPROMへの値の書き込みへと進化したことから、出荷後にパソコンからのRS232C通信でそのデータを書き換えることができるMFCも出現したので、「窒素ガス仕様で買った製品を、後からユーザーサイドでCFを書き換えて、別のガス用で使ったらいいじゃないか?」という考えもでてきたことがあります。
しかし、それは必ずしも上手く機能しませんでした。
その理由として、挙げられるのは、窒素との流量比が必ずしも1対1の関係に無いガスが存在することです。
流量レンジによっては直線性が出ない性質を示すガスもありました。
また温度、圧力により窒素との流量比そのものが大きく変動してしまう性質のものもあり、窒素ガス用で作られたMFCを実ガス用にCFの数値で補正して使っても、必ずしも実ガス流量が正しく制御されないという問題が生じたのです。
具体例で説明しましょう。
窒素用に調整されたMFCに、あるガスAを流した場合、窒素との流量比率がある1つの比で表される場合は、図のグラフのような流量特性となります。

この場合は1つのCFで算出される流量比で補正することで傾きを調整し、窒素用MFCをガスA用に調整できるように思えますね?
ところが実際、ガスAが必ずしも窒素と一つの流量比では無かった場合、一例として図のグラフのような流量特性を示します。

これでは1つのCFでMFCセンサー出力を補正して実ガスを流した場合、見かけ上グラフの点線で示した流量出力が得られていても、実際のガスは実線で示している分の流量になっており、斜線部分の流量誤差が全域で生じてしまうということになります。
当然この傾向はガス種によって異なるのですが、大変困った事によくトラブルを起こしてMFCを即交換しなくてはならなくなるような厄介なガスに限って、こういった傾向が顕著なのです。
トラブルが生じた際に、ストックの窒素用のMFCにそのラインのガスCFを入れて代替することで、装置の復旧に要する時間を短縮するという運用思想が機能しない事になるのでした。
このようにCFを使ったマルチガス対応に関しては、鳴り物入りで登場した第1世代デジタルMFCでも対応は難しかったのです。
デジタルMFCはCFを簡単に変更できただけで、そのCF自体がF.S.90%の流量制御ポイントと、F.S.50、10%くらいの流量域では大きく異なってしまうようなガス種、1ガス=1CFではないガス種には対応できない場合もあるという問題が鮮明になったのでした。
【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan