真・MFC千夜一夜物語 第279話 マスフローでこのガスを使う時は注意しよう! その11

2019年04月23日

モノシランが引き起こした事故事例 その2

もう一つモノシランの事故事例を解説しましょう。
前回の大阪大学の事故は逆止弁が問題でしたが、今回はMFCが原因の一つと考えられているだけに、要注意です。

1982年、宮崎県の半導体製造工場で、CVD装置の排気ダクトに残留したモノシランが発火し、ダクトから建造物に燃え広がる事故が発生しました。
重傷2名(内1名は後日死亡)、中軽傷3名の事故となっています。
CVD装置のモノシランラインのMFCが流量を過大に供給したことにより、CVD装置チャンバーで反応できなかった多量のモノシランが、後段にある排ガス処理装置へ流れ込みました。
しかも、その燃焼式除害装置に供給される筈の酸素はなぜか止まっており、結果として未処理のモノシランが除害装置の更に下流のダクトに侵入し、そこにあった空気と反応して自然発火したのが原因とされています。
この事例ではダクトの材質を不燃材にする、排気ダクトの共通化を避け1装置に1ダクトとする、ダクトに風速センサーを設ける、火災検知センサーを取り付ける等の対策が取られました。

本ブログとしてはMFCが過大なモノシランを流したと言われていることに関して、Decoの考察を加えておきます。この事件でMFCの流量センサーが微粉末による閉塞をしていたと推定されています。

MFCの流量センサーが閉塞して流れないのに、なぜ過大な流量が流れてしまったのか?本ブログを続けて読んでいる読者ならすぐわかるかもしれませんが、初読の方の為に説明をしましょう。

モノシランに限らず、半導体製造プロセスで使用するガスはクリーンなものが選定されていますし、フィルターにより異物の混入を幾重にも防ぐ構造になっています。
なのに微粉末がMFCに侵入していたというのは、おそらくはモノシランが反応して生成したSiO2ではないでしょうか?
この微粉末がMFCに侵入しセンサーチューブを閉塞させている状況を図で示します。

巻線式分流構造をとる半導体製造装置用MFCの場合、MFCに入ってきたガスはセンサーと層流素子(バイパス)に分流されます。
ここでセンサーに異物で詰まりが生じていた場合、センサー管にはガスは流れないので、センサーの上流から下流に熱移動が生じず出力は0となります。
分流した層流素子側の流路は詰まりでガスが流れ無いほどの状況ではなかったと仮定しましょう。
MFCは測定値:PV値(流量出力)<目標値:SV値(流量設定入力)の状態をPV=SVにする為に、操作量MV値(バルブ電圧)を増やして対応しようとします。
しかし、詰まりで閉塞しているセンサー管には流れは生じませんから、PV=0の状況は変化しません。
その為、MV値は最大値となってバルブを制御、つまりMFCの流量制御バルブが全開で維持されてしまうのです。

これがこの事故で生じたMFCの異常に過大な流量制御を起こした不具合の原因と思われます。
言い換えると、この事故の原因はMFCに生じた不具合ではありますが、MFCの流量制御系自体は"正常な動作"を続けた結果だったのかもしれません。
(Decoが現場を検証したわけではないので断言は避けます。
これはあくまでMFCのセンサー管が微粉末で詰まった場合、"MFCとしては正常な流体制御結果"から、モノシランガスでは大きな危険が発生することを説明し、注意を喚起するための考察です。)

【あなたにMFCの夜が来る~真・MFC千夜一夜物語】by Deco EZ-Japan